「何もしなくていい場所」に身を置いたら、心の奥の声が聞こえてきた。ひとりクルーズ体験記

クルーズ旅行に一人で行く、と言うと、少し驚かれることが多い。
「寂しくない?」「カップルや家族向けじゃない?」
実際、私自身もそう思っていた。

日常は忙しかった。
仕事の予定、周囲との調整、将来のこと。
一人の時間はあっても、頭の中はいつも誰かや何かで埋まっていた。

そんな状態が続き、「一度ちゃんと立ち止まらないとまずいかもしれない」と感じたとき、なぜか頭に浮かんだのがクルーズだった。
理由ははっきりしていない。
ただ、「逃げ場がないくらい、何もしない場所」に行きたかったのだと思う。

船に乗った初日、正直に言うと少し落ち着かなかった。
周りにはグループやカップルが多く、
自分だけがポツンと取り残されているような気がした。

でも、それも最初だけだった。

翌朝、目を覚ましてカーテンを開けると、そこには海しかなかった。
建物も信号も、人の気配もない。
ただ、船が静かに進んでいる。

朝食を取りに行くのも、自分のタイミングでいい。
誰かに合わせる必要も、急ぐ理由もない。
席に座ってコーヒーを飲みながら、ぼんやりと海を眺めていると、不思議と焦りが薄れていった。

クルーズでは、「一人でいること」がまったく目立たない。
本を読んでいる人、景色を見ている人、ただ目を閉じている人。
みんな、それぞれの時間を過ごしている。

デッキチェアに座って風を感じていると、
頭の中でずっと鳴っていた雑音が、少しずつ静かになっていくのがわかった。

「次は何をしなきゃいけない?」
「この先どうする?」
そんな問いが、自然と消えていった。

寄港地では、最低限の観光だけをした。
有名スポットを巡るより、ただ街を歩く。
知らない言葉、知らない匂い、知らない空気。
それだけで十分だった。

船に戻ると、また同じ部屋、同じベッド、同じ窓からの海。
旅先なのに、生活の延長のような安心感があった。

夜、デッキに出ると、空には星が広がっていた。
陸では見ることのない数の星。
その下で一人立っていると、自分の悩みがとても小さなものに感じられた。

旅の後半、あることに気づいた。
「寂しい」と感じる瞬間が、ほとんどなかったのだ。

一人でいることと、孤独であることは違う。
クルーズは、その違いをはっきりと教えてくれた。

誰にも邪魔されず、でも世界から切り離されているわけでもない。
その絶妙な距離感が、心をとても楽にしてくれた。

帰港の日、船を降りるのが少し惜しかった。
ここでは、無理に前を向かなくてもよかったからだ。

この旅で、人生の答えが見つかったわけではない。
何かが劇的に変わったわけでもない。

ただ、自分のペースを思い出した。
それだけで、十分だった。

クルーズは、
「頑張るための旅」ではなく、
頑張らなくてもいい自分に戻るための旅だった。

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